AMM型NFTマーケットプレイスについて解説!

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113億ドル以上の時価総額を誇ると言われているNFT業界では、イーサリアムのOpenSeaやソラナのMagic Edenを初め、多くのマーケットプレイスがオーダーブック型の注文方式を採用しています。しかし2022年半ばに、Sudoswapと名乗るプロジェクトがAMM方式のマーケットプレイスをリリースして以降、オーダーブック方式一強であったNFT市場勢力図に変化が訪れてきています。

AMM型市場を提供するプロジェクトの革新的な点がUniswapなど、これまではDeFi(分散型金融)分野のDEXでファンジブルトークンのトレードに利用されていたシステムを、唯一無二性を特徴としたNFTの売買に持ち込んできた点です。

本記事では、新しくNFT分野に登場したAMM型NFTマーケットプレイスについて、従来の市場と比較しながら詳細に解説していきます。

今までのNFT市場とは

OpenSeaやMagic EdenなどNFTマーケットプレイスの多くは、オーダーブック方式を採用していることがほとんどです。オーダーブック式とは中央集権型取引所で採用されているシステムで、売り手が売りたい値段を提示し、それに買い手が応じることで取引が成立するものです。

例えば人気のNFTコレクション「Bored Ape Yacht Club」の一部は、執筆時点でOpenSeaにて61ETHで取引が行われています。これは「61ETHで売ろう」と思っている売り手が存在し、そのオファーに対して「61ETHなら買ってもいい」と思っている買い手が存在するため、61ETHという価格で売れたということを意味しているのです。

この仕組みはシンプルで便利なものの、売り手からすると同じコレクションのアイテムを何個も保有していたとしても、1つずつ価格を決めて出品しなければならないという手間がありました。また保有しているコレクション内の最初のNFTが売却されたとしても、そのコレクションの希少性が高くなっているため、残りのアイテムの販売価格を高くするということも自動ではできず、1つ1つ価格を自分で設定しなおすという作業を行っていたのです。

これらのことから、オーダーブック基盤の市場は必ずしも売り手にとって利益を最大限に追求できるプラットフォームではなかったと言えるでしょう。

AMM型NFT市場とは

先ほどのオーダーブック型の不便さを解消するかのようにNFT市場に持ち込まれた仕組みが、AMMというシステムです。これはNFT市場に特化した仕組みではなく、元々はUniswapやSushiswapといったDEXで採用されていました。Uniswapを利用している方であれば、AMM型NFTマーケットプレイスをUniswapのNFT版と考えると分かりやすいかもしれません。

トレード方法

AMM最大の特徴は従来の市場のように売り手および買い手が直接売買を行うのではなく、ユーザーは「流動性プール」と呼ばれるスマートコントラクトを相手に売買を実行するという点です。これは、DEXでもNFT市場でも同じであり、AMMの基礎となる概念であるため覚えておくと良いでしょう。

流動性プールとは、簡単に言えば、資産が貯められている場所です。ここでいう流動性とはNFTアイテムおよびその購入に使用される通貨を示しています。例えばSudoswapの「Azuki」コレクションの場合、NFTの形で表されているAzukiコレクションのアイテム、およびそれらの購入に使用できるETHが流動性としてプールに集められます。

NFTのトレードを行いたいユーザーは、このAzukiのNFTおよびETHが集まっている流動性プールとやりとりを行うのです。具体的にはAzukiのNFTが欲しい人はプールに相応額のETHを投げ入れ、Azukiを貰っていきます。反対にAzukiを売却してETHが欲しい人は、Azukiをプールに入れることで代わりにETHをプールから貰うことになります。

つまり買い手の観点から見ると予めたくさんのNFTおよび通貨が集められているプールに行き、そのプールから欲しいものを貰い、代金として相応額をプールに戻す仕組みとなるのです。これは売り手および買い手同士が直接関わるオーダーブック型とは大きく異なる点だと言えますね。

流動性提供者とは

AMMの「NFTおよび通貨が集められているプールから欲しい資産を貰い、相応額をプールに渡す」という仕組みは、言い換えれば、プールに資産が集められていなければAMMは機能しないということを意味しています。先ほどのAzukiの例で言えば、誰かがAzukiコレクションまたはETHをプールに提供してくれなければそもそもトレードはできないのです。

「自動マーケットメイカー」とはいえ、自動的にどこからともなく流動性が湧き出てくるわけではありません。プールに流動性を提供してくれる人がいるからこそ、プロトコルが機能しているのです。

このように円滑なNFTのトレードができるように、予め流動性プールに流動性を預け入れておいてくれる参加者を「流動性提供者」と呼びます。この流動性提供者はAMMに特有かつ不可欠な存在であると言えます。

流動性提供者はユーザーが支払う手数料の一部やガバナンストークンを報酬としてプロトコルから受け取ることが可能になっており、これら報酬が流動性を提供するインセンティブとなります。

流動性プールは3種類

分散型のAMM型NFT市場では既存のプールを相手にトレードを行うだけでなく、流動性提供者として自分でプールを作成することも可能です。

ETH/DAIプールやWBTC/USDCプールのように、1つのプールで売買の両方を取り扱っていることがほとんどであるDEXとは異なり、Sudoswapを初めとしたAMM型市場の多くでは売買の両方を行うことができるプールに加え、NFT売却専門および購入専門のプールも準備されていることが大半です。

売却プールはその名の通り、NFTの売却に特化したプールとなっています。持っているNFTを売りたい人が作るプールです。Azukiの例に即すとこのプールにETHはなく、AzukiのNFTだけが存在しています。したがってAzuki NFTが欲しい人はこのプールにやって来てETHを渡し、プールからNFTを貰うという流れになるのです。

反対に購入プールはNFTを受け取りたい人が作るプールとなっています。中にはETHが貯められているため、保有しているAzukiをETHと交換したいトレーダーはプールにAzukiを渡し、プールからETHを受け取ります。

売買の両方を行うことができるプールは売却プールおよび購入プールを組み合わせたようなものです。UniswapのETH/DAIなどというペアがNFT/ETHとなったようなものだと考えることも可能です。またこの種のプールには、NFTおよび通貨の両方が預けられているため、NFTの売却および購入の両方つまりトレードが可能なのです。

SudoswapのAzukiコレクションの場合、UIではOpenSeaなどと同じように個々のアイテムの価格が独立して掲載されているように見えますが、その裏では、5つの異なるプールが稼働しています。

プールにより異なるレート

オーダーブック式市場では、売り手が値段を提示することにより各NFTの価格が決定されていましたが、そもそも売り手と買い手が直接トレードを行わないAMM方式では、価格決定も異なる方法で行われています。

AMMではプール内にある資産の量と資産の価格の関係性を表した数式が、各プール毎に予め割り当てられており、その数式に従ってレートが決定されます。この数式を決定するのは流動性プールの作成者です。

例えばSudoswapでは、linear(線形)、exponential(指数関数的)およびconstant product(等生産量曲線)の3つの数式から好きなものを選ぶことが可能となっています。

1つ目のLinearの場合、一次関数の線形グラフで表されるように、プール内のNFTが売却されるたびに、NFTの価格が一定額ずつ上昇していきます。例えば、プールにあるNFTの最初の販売価格が1ETHで、そこからNFTが1つ売却されるごとに0.1ETHずつ価格が上昇していく設定だったとすると、1つ目のNFTは1ETH、二つ目のNFTは1.1ETH、3つ目のNFTは1.2ETH…となっていくのです。

このようにプール内にある資産の量により、価格が決定されることになります。

Exponentialも考え方としてはlinearと特に差異はないと言えますが、一定額で価格が上昇していくlinearに対し、一定のパーセンテージで価格が上昇していくのがexponentialです。例えば、開始価格が2ETHで価格上昇の割合が50%に設定されている場合、最初のNFTは2ETHで販売されます。その後2つ目のアイテムは、2ETH+50%で3ETH、3つ目は3ETH+50%で4.5ETHと、指数関数的に価格が上昇していくのです。

3つ目のConstant productとは、Uniswapを初めとした多くのDEXで利用されている数式です。この数式が用いられているプールでは、プール内にある二つの資産の総数の積が常に一定であるように設計されています。

唯一無二性が特徴的なNFTですが、価格設定方法からも分かるように、AMM型の市場では「各アイテムにどれほどの価値がついているか」ということではなく、プールの価格設定方法および同じプールにあるアイテムの取引状態により価格が決定されます。要するに価格設定方法においては、異なるIDを持つNFTがそれぞれ区別されていない状態にあります。

AMMのメリットとは

オーダーブック式とは仕組みが大きく異なっているAMM型市場では、メリットまたはデメリットも従来の市場とは異なってきます。

分散化の促進

AMM型の最大の利点の1つと言えるのが、全てのトランザクションが完全にオンチェーンで実行され仲介者が存在しないため、分散性が促進されるという点であるでしょう。

オーダーブック型市場では売り手から買い手へのNFTの移動はブロックチェーン上で実行されますが、NFTの出品から買い手とのマッチングに至るまでの段階は、基本的にはオフチェーンで行われており、幾分か中央集権的な設計となっています。そのため、市場自体がなくなってしまう可能性が拭いきれない上に、プロジェクト側が出品できるコンテンツを検閲することも可能なのです。

全てのアクティビティがオンチェーンで実行されるAMMではこれらの懸念が少なくなっています。

比較的低コスト

OpenSeaなどでは売上の一部をクリエイターへロイヤリティとして還元していますが、SudoswapなどのAMMにこの仕組みはありません。そのためユーザーは、低コストでNFTを購入できる点もメリットであると言えます。

価格設定の柔軟性

上述のようにAMMではアイテム価格を1つ1つ設定する必要がないため、「1つ売れる毎に価格を上げる」といったような動的な価格設定が可能です。これにより全てのアイテムを底値で売ってしまうといった状況を簡単に防ぐことが可能になります。

流動性提供による報酬獲得と流動性の増加

売買しかできないオーダーブック式とは異なりAMM式では、流動性提供者として資産を預け、受動所得を稼ぐことも可能です。また資産をまとめてプールに預けているAMMでは、1つ1つのアイテムが売れるのを待つ必要があるオーダーブック式よりも高い流動性が期待できるのです。

AMMにおける懸念

メリットとは反対に、懸念材料も存在しているため合わせて覚えておきましょう。

ロイヤリティ還元

上述のようにAMM式が低コストな主な理由は、クリエイターやプロジェクト側にロイヤリティが渡されていないためです。そのためこのモデルの普及はクリエイターのやる気を削ぎ、長期的なクリエイター経済の成長を妨げるのではないかとの声も上がっています。また一時市場での価格が高騰し、詐欺が増える可能性も指摘されています。

NFT間の差別化

AMM型市場では同一プールにあるNFTは全て同等に扱われます。そのためレアなアイテムと普通のアイテムが同じプールに預けられていた場合、それらアイテムのレア度は考慮されず、そのプールに割り当てられた数式およびプール内のトレード状況に基づいてのみ価格は決定されます。

つまり、レアなアイテムをプレミア価格で販売したい場合には適していないシステムであるのです。

価格変動の損失

売買の両方が可能なプールに流動性提供をした場合、AMM特有の価格変動損失が発生するリスクがあります。価格変動損失とは数式によってのみ価格が決定されていることにより、市場価格とのズレが生じ、流動性を提供しなかった場合と比べ相対的に出る損失を指しています。