FTXは個人投資家から機関投資家まで、幅広い顧客向けに暗号資産(仮想通貨)取引プラットフォームを複数運営している企業です。19年に設立されたグローバル版「FTX.com」の現物市場は近年急成長を遂げており、一日の取引量は約3,000億円で22年4月12日時点に市場3位となっています。

同取引所を率いるサム・バンクマン・フリードCEOは「SBF」の愛称で知られ、純資産225億ドル(約2.5兆円)で21年の米国の長者番付「フォーブス400」に29歳でランクインしたことでも有名な人物です。
21年6月にFTXの米国ブランド「FTX.US」は、暗号資産(仮想通貨)取引所として初めてMLB(メジャーリーグベースボール)のオフィシャルパートナーとなっています。また、大谷 翔平選手や大坂 なおみ選手といった世界的に有名な日本人プロスポーツプレイヤーともパートナーシップ契約を締結しているので、仮想通貨に馴染みのない日本の方でもニュースなどで見聞きした方は多いでしょう。
今回は、FTXとはどのような企業なのか、企業概要から日本向けサービスまでご紹介します。
目次
①FTXの企業概要
19年5月に香港で設立されたFTX Trading Limitedは、21年9月に仮想通貨に友好的なバハマに本社を移転させています。22年2月に同社は企業評価額4兆円(320億ドル)で480億円(4億ドル)を調達。21年10月の資金調達ラウンド時点の評価額3.15兆円(250億ドル)から急成長しています。
同社のグローバルプラットフォームである「FTX.com」は、最大20倍のレバレッジをかけた仮想通貨取引が可能で、株式をトークン化した「株式トークン」や各種インデックス、仮想通貨オプションなどデリバティブ商品を豊富に揃えていることが特徴です。なお、グローバル版FTXのサービスの提供は、北米や欧州、日本を含む様々な地域で制限されています。
FTXは各国規制に準拠した現地法人を設立しており、米国市場向けにはFTX.US(West Realm Shires Services Inc)を所有しています。最近では、アラブ首長国連邦で仮想通貨ライセンスを取得し、現地法人を設立することを表明しました。
FTX Japan株式会社
日本でFTXは、暗号資産交換業者Liquid by Quoineを買収し、22年4月にサービス名を「Liquid by FTX」へと変更しました。これに伴い、社名もQUOINE株式会社からFTX Japan株式会社に改められています。FTX Japanは、FTXのグローバル水準のサービスを徐々に日本国内向けに統合する計画です。
現状、FTX Japan株式会社の傘下には「Liquid by FTX」と「FTX.jp」という2つのブランドが存在します。特にFTX.jpはグローバル版FTXの取引プラットフォームをベースとし、グローバル市場の流動性の共有やデリバティブ商品「パーペチュアル(永久先物契約)」を取り扱うなどで特徴的です。
②FTX.jpのグローバル水準な取引サービス
それでは日本市場向けのプラットフォーム「FTX.jp」の取引サービスについて紹介します。FTX.jpの特徴は、日本の規制に準拠した形で、本家であるグローバル版FTXと同じUI/UXで利用できることです。
FTX.jpの「現物取引」
FTX.jpの「現物取引」は業界最安水準の手数料設定を導入しており、4月16日時点にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を含む8種類の仮想通貨を取引できます。
〇FTX.jp:現物取引の取扱い仮想通貨
ビットコイン/イーサリアム/リップル/ライトコイン/ビットコインキャッシュ/ベーシックアテンショントークン/ソラナ/
FTXトークン
FTX.jpの取扱ペアは日本円(JPY)建てと、米ドル(USD)建ての2種類があり、どちらもグローバル版FTXとオーダーブックを共有しています。例えば、BTC/USDやBTC/JPYの24時間出来高は、同じタイミングのグローバル版FTXの出来高に適合しています。

構造上、日本のユーザーはFTXのグローバル市場が抱える潤沢な流動性にアクセスできるようになっています。仮想通貨取引においては、出来高(流動性)が高いほどスリッページのリスクが低くなる傾向があり、価格スプレッドが狭く、注文の執行がスムーズになる利点があります。
FTX.jpの「デリバティブ取引」
FTX.jpのデリバティブ取引では、世界的に人気の高い金融商品「パーペチュアル」を利用できます。4月16日時点にFTX.jpのパーペチュアルは米ドル(USD)建てのみ利用可能で、9種類の仮想通貨を取引できます。
〇FTX.jp:パーペチュアルの取扱い仮想通貨
ビットコイン/イーサリアム/リップル/ライトコイン/ビットコインキャッシュ/ベーシックアテンショントークン/ソラナ/
FTXトークン/ステラ
パーペチュアルもグローバル版FTXとオーダーブックを共有しています。なお、グローバル版FTXでは最大20倍のレバレッジ取引が可能ですが、FTX.jpのパーペチュアルは証拠金(日本円、米ドル、仮想通貨)に対して最大2倍までポジションを管理できます。
パーペチュアルは従来の先物契約と似ていますが、以下のような違いがあります。
- 最終決済期限(SQ)が無いこと
- パーペチュアル価格を外部の市場価格(インデックス価格)に近づけるために、ファンディング(資金調達)という仕組みがあること
FTXでは、1時間ごとに自動ロールオーバー(乗り換え)が行われ、ポジション(建玉)を保有するユーザーに対してパーペチュアル価格がインデックス価格に近づくように手数料(ファンディング:資金調達)が課されます。

例えば、パーペチュアル価格がインデックス価格より上方に乖離するほど、ロングポジションに対するファンディングレート(資金調達率)が高くなります。手数料を支払いたくないトレーダーはロングポジションを解消する必要があるため、結果的にパーペチュアル価格を下げるように機能します。その逆もしかりです。
③取引所トークンFTT
FTTのユーティリティ
FTXは独自の仮想通貨FTXトークン(FTT)を発行しています。FTTはグローバル版FTXの収益に応じて毎週償却される仕組みが採用されているので、市場での流通量が減少して需給を引き締めていく性質があります。
〇FTTの償却内容
- 取引における手数料の33%
- バックストップファンドの利益の10%
- FTX取引所外の利益の5%
FTX.jpでFTTをロックすることで、日本のユーザーは各種ユーティリティとしてリベートや割引を享受できます。
〇FTT、日本人ユーザー向けの付加価値
- リファラルリベートのアップグレード:FTXトークンをロックすることで、段階的にリファラルレートがアップグレードされる。
- メイカー手数料割引:FTXトークンをロックすることで、通常のメイカー手数料割引に加え、さらに割引が適用される。
- ブロックチェーン手数料の免除:FTXトークンをロックすることでERC20とETHの引き出しを一定数無料で行える。
また、FTXとLiquidの統合の一環としてLiquid Chainの開発中止が決まり、Liquid ChainのネイティブトークンQASHとFTTの交換期間が設けられました。期間内に交換すると最大20%のボーナスFTTを獲得できるスキームでした。なお、Liquid Chainは全てが中止になる訳ではなく、オープンソースプロジェクトとして有志に開発が委ねられている状況です。
IEOの参加権
なお、グローバル版FTXではFTXトークン(FTT)に以下のようなユーティリティがあります。
- 先物ポジションの担保
- 取引手数料の割引
- OTC 取引における対価獲得
- Serum (SRM)の Airdrop
- IEO への参加権利
現在のところ、これらのサービスは日本国内居住者には利用できない状況です。中でも、グローバル版FTXで開催されるIEOの参加券となることは、FTT保有の重要なインセンティブとなっています。
「IEO(Initial Exchange Offering)」は企業やプロジェクトがトークンを活用した資金調達手段の中でも、仮想通貨取引所が主体となってプロジェクトの審査やトークンセールを行う仕組みです。取引所のユーザーにとっては、審査を経たプロジェクトに初期段階で投資できる利点があります。

上図(一部を抜粋)のように、FTXのIEOはソラナ・ブロックチェーン上の戦略ゲーム「Star Atlas(ATLAS)」をはじめとする有望プロジェクトを複数上場させており、優れたパフォーマンスを上げてきました。
④FTXへの入金
FTX.jpでは、日本円を入金したら米ドルに替えてから仮想通貨を購入します。上図のように、ウォレット・ポートフォリオを表示すると、アカウントの保有資産が一覧で確認できます。各通貨の「変換」ボタンをクリックして指定した数量を目的の通貨にすぐに交換できるなど、グローバル版FTXと同じ仕様になっています。
FTX Japan株式会社は、FTXの商品及びサービスを日本の法令に準拠した形で、徐々に統合していく予定です。上記2つの取引サービスの他に、FTX.jpでは「FTX.comP2P暗号資産貸し借りサービス」を設けています。
このサービスはグローバル版FTXが提供する「FTX.com Peer to peer Borrow /Lending」と連携するようです。グローバル版では、ユーザー間が設定する金利で仮想通貨を貸借し、現物取引でのマージントレーディングに活用できます。
なお、現在のところ、FTX.jpでビットコインの借入れ画面が表示されていますが、まだ利用できないようです。
その他、グローバル版FTXは仮想通貨のレンディングやステーキングに対応しており、ユーザーが口座上で保有する仮想通貨の運用によりパッシブインカム(受動収入)を受け取ることができます。同様のサービスは国内でも見られるため、今後FTX.jpでも利用可能になる可能性があります。
⑤FTXの最新動向
FTXの親会社である暗号資産投資企業Alameda Research(アラメダ・リサーチ)は、数々の有望な暗号資産・ブロックチェーン企業やプロジェクトに出資しており、世界の暗号資産投資家の意思決定に与える影響力は無視できません。FTXも22年1月に仮想通貨業界のスタートアップを支援する目的で2,400億円(20億ドル)規模のベンチャーファンド「FTX Ventures」を新設するなど勢いがあります。
FTXはまた、ソラナ(Solana)プロジェクトに早期に出資し、ソラナ採用のサービスを複数構築してきました。21年11月には、110億円規模のメタバースファンドを共同設立するなど、ソラナのエコシステム拡大に重要な役割を担っています。
FTXを率いるサムCEOはそのトレーディング能力と経営手腕が高く評価されており、近年では米国プロスポーツ団体やeSports業界との提携のほか、米国におけるロビーイング活動にも積極的です。
22年12月にはFTX.USを通してバイデン陣営に計5.8億円(522万ドル)を寄付しました。FTX.USは米商品先物取引委員会(CFTC)に対し、先物取引業者(FCM)の仲介なしで証拠金デリバティブ取引を直接精算できるよう要請。CFTCもパブリックコメントの提出を求めるなどの対応をしています。
22年3月にウクライナ情勢に緊張感が高まる中、FTXはウクライナ政府のデジタル変革省などと連携して公式寄付サイト「Aid For Ukraine」を設立。執筆時点に同サイトで72億円(6,000万ドル)以上の仮想通貨が寄せられています。
このように、FTXの動向は仮想通貨市場全体に影響力があるため、日本ユーザーにとっても重要です。より身近なところでは、Liquidグループを傘下に収めたFTXが国内市場でどのようなシナジーを発揮し、新たなサービスをリリースしていくのか注目されます。
参照
FTXによるLiquidの買収について 2月
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000036801.html
Liquid社名変更の挨拶 4月
https://blog.liquid.com/ja/20220325-ftx-liquid
FTX Venture Fund
https://blog.ftx.com/blog/launching-ftx-ventures/
メタバースファンド
https://coinpost.jp/?p=291268
寄付
https://coinpost.jp/?p=196951
米CFTC委員長の議会証言、FTX提出のデリバティブ改正案も焦点に
https://coinpost.jp/?p=336490
ウクライナ政府とFTXら、仮想通貨募金サイトを設立
https://coinpost.jp/?p=330240
QASHアップデート情報
https://blog.liquid.com/ja/20220404-qashfttswap
フォーブスの米国長者番付、仮想通貨起業家6人が新加入 FTXのサム氏など
https://coinpost.jp/?p=282154
https://forbesjapan.com/articles/detail/41579/2/1/1
FTX..jp取引手数料
https://help-jp.ftx.com/hc/ja/articles/4491513668377-%E5%90%84%E7%A8%AE%E6%89%8B%E6%95%B0%E6%96%99
46000ドル台で揉み合うビットコイン、Liquid by FTXのQASHが前日比25%高となった背景
https://coinpost.jp/?p=337423
最大手取引所FTX傘下に入る「Liquid」 主な特徴と将来性を解説
https://coinpost.jp/?p=318855